軋み

軋んでいる

1年と1か月の思い出

10月から始まる新しい勤め先の契約に合わせて、大阪に越してきたのは昨年9月末の話。こっちに来て1年以上が経っている。当時の住居である、会社で契約したマンスリーの部屋は狭く、備え付けのベッドのスプリングもばね定数が高い。寝返りでギシギシ音を立てる。そして、インターネットが開通していない。部屋に着いた当日にインターネット契約の窓口に電話を掛けたが、工事が来たのが10月末で、結局ほぼ1か月間は家に居ながらにしてインターネットが使えないという、美化のし辛い経験をした。

インターネットの無い生活の空虚さは想像以上で、特にすることも無い業後の時間はひたすら近所を練り歩いていた。昨年10月の歩数の記録がスマホに残っているのだが、平均で8000歩以上歩いていた。我ながら相当に暇だったんだな。だが住み慣れない街を練り歩くのは新鮮味のある行為で、いろいろな発見があった。入り組んだ路地にスーパーがあったが、別段ものが安いわけではなかった。袋小路に昔ながらの雰囲気を持つ豆腐屋があった。歯科と理髪店、美容院がやたらと建っている。中には美容歯科にも対応しているものもある。その中で1件異様な家を見つけた。軒先にコウモリや、蜘蛛など毒々しい生き物の装飾がぶら下げている。玄関先までの短い通路の脇に髑髏が並んでいる。髑髏のうちの数個は血を模した赤いペイントが施されている。

平和な街並みにの中にホラーハウスを見つけて面食らっていたのだが、当時は10月。ああ、ハロウィンの飾りつけなんだな、と納得できた。手のひらいっぱいサイズの蜘蛛の主張の強さも、ハロウィンなら頷けた。俺の住んでいる場所は都会とは呼べないが、こういうイベントを大事にする空間があってもいい。きっと愉快な人が住んでいるのだろうと思って家に戻った。

11月目前にようやく家にインターネットが開通した。散歩そのものをする機会は激減した。が、12月のある日、コインランドリーを回す時間が手持ち無沙汰で、しばらく歩くことにした。迂回しながらネコが集まる場所を目指す。1か月散策し続けて見つけた場所。道中、ホラーハウスだった場所を通りかかった。そこではまだ軒先にコウモリや蜘蛛がぶら下がっていた。髑髏もそのまま。ツリーや靴下などの可愛らしい飾付けは一切無い。ハロウィンが過ぎ、クリスマスシーズンになってもなおホラーハウスを貫いていた。季節感を出しているわけではなかったらしい。

こちらに越してきて1年と1か月を迎える今になって、当時のことを思い出した。今では散歩はほとんどしていない。ネットスーパーを利用するようになって、散歩どころか外出自体が激減した。例の家は周辺に生活にかかわる施設が無く、用事のついでに訪れることも無い。もうすぐハロウィンだ。