軋み

軋んでいる

20220723

休職することになった。業務中はもちろん終業後や休日など、特に空き時間の方が何をすればいいかわからず不安な状態が2か月ほど続き、晴れて診断書が出て休職をすることになってしまった。膨大な無為の時間があまりにも怖かったので、とりあえず名古屋の実家に戻ることにした。こんなことになってしまいました、という報告はしなければなるまい。

夜行バスに乗る前に、気になっていた映画「さよなら、バンドアパート」を見ることにした。7時半開始で上映時間が100分弱なので、ちょうどいい時間になるはず。初めて入るシアターで、薄暗いビル内にボソボソ声の店員の案内が聞こえている。良い雰囲気だ、と思う。席の入りは大々的に宣伝されている映画ではないということもあってあまり良くはなかったが、誰かしらのスマホからthe band apartの「the same old song」が流れていた。もしかしたらthe same ~~ではなかったかもしれないが、実に良い雰囲気の中映画が始まってくれたと思う。肝心の映画の内容は、今ひとつ分からなかった。時制がやや複雑な中、主人公が上手くいってメジャーデビューしたり、アル中になったりしていた。一遍の小説を100分弱の短い間に収めることそのものが難しかったのかもしれない。座っていて、話の展開についていこうとしているといつの間にかエンディングテーマとして採用されている名曲「can't remember」が流れていた。ただ「人生は思うようにならんけど、人間は思うように生きなあかんのや」というヒロインのセリフは印象に残っている。言った時の口調は朧気なんだけど。

シアタールームからは程近かった、深夜バスのターミナルに向かう。名古屋行きのものが出るまで1時間半くらいだった。待ち時間としては結構なものである。ターミナルの建物は広く、自動のものだけでなく、人力(っていうのか?)の券売窓口が何列にも広がっている。バスの乗降口はA4, C6のようにアルファベットと数字で示されている。脇のスペースを埋め尽くすように自販機が並び、ぽっかりと空いた真ん中に案内窓口が設置されている。残りの広大なスペースは概ね客がバスを待つための椅子としてスペースが割り当てられている、のだが、その膨大な数の椅子を埋め尽くさんばかりに人間がひしめき合っている。確かにここには屋根、電灯、Wi-Fiと文化的な生活を屋外で営むために必要な要素が揃っていた。まあ、次のバスさえ出発してくれれば多少は席も空いて、自分が座ることもできるだろう……とぶらぶら近所を10分ほどふらついて、またターミナルに戻ってきた。バスが1台どこかしらに向けて出発していった、が、席上の人口密度に変化が全くない。彼らは何を待って、ここに座っているのだろうか。

何とか空いた席を見つけ、「1984年」を読んで暇をつぶしていた。ぶっちゃけよく分からない話だ、とりわけ多くの人間に囲まれていると没入感も落ちる。主人公が打倒ビッグブラザーに思い当たったあたりで定刻になり、バスが来たので乗降口に向かったが、席上の人々に動く気配は無かった。彼らは何を待っているのだろう。