軋み

軋んでいる

歯医者に行ってきた。先日ふと歯に穴が開いている感覚があったからだ。今までになかった隙間の違和感は大きく、仕事の時間にも空いたスペースを舌でなぞり続けていた。昔から虫歯体質なのか知らないが、歯医者には随分とお世話になった記憶があるが、いまだに歯医者に行くのが怖い。いくつになっても、やっぱり痛いのは嫌だ。これは人類共通の思考だと思っていたが、実家の人間は皆進んで歯医者に行くような連中だった。虫歯体質だけが俺に遺伝した、ということなのか。自分の住んでいる箇所とスペース、そして歯医者というごく簡単なワードで検索し、評価も高く内装も綺麗な場所を選んで電話で予約を済ませる。ついでに地元の歯医者で抜いてもらえなかった親知らずも抜いてもらうことにした。正直これから抜歯の際にやってくるであろう痛みのことを思おうと怖くて仕方ないのだが、電話越しだとスラスラ言葉が出てくるから不思議だった。

ロケーションが駅近くということもあってか、ネットで見た通りの綺麗な内装だったので安心した。渡された問診票は、コロナウイルス関連の物と歯科用の物の2種類あった。「歯科での治療に抵抗はありませんか?」という欄があったが平気、ふつう、こわい、気が重くなる、考えたくないなどの豊富な選択肢があって面白かった。怖いので「こわい」に素直に丸を付けたがネガティブなニュアンスを持つ回答が3通りも用意されているとは。

5分くらい待つと診察室に呼ばれた。歯の状態の確認(マルとかCとか言われるやつ)のあとに、レントゲン撮影をしてもらった。レントゲン室はとても狭かった。事務の方も医師の方も女性だったのでもともと女性向けの歯科なのかもしれない。段差に気をつけながら入って仰々しい撮影器具と対面する。X線から体を守る装備をマジックテープで付けてもらう。ここを前歯で噛んでください、と謎の器具にカバーをかけながら言われたので従うと、レントゲンの機械が回り出す。目を閉じるように言われたが、駆動音と機械が微妙に肩に触れる感覚がより鮮明になってちょっと怖かった。まさかレントゲンごときに怯える羽目になるとは思わなかった。

レントゲンの結果を見せられるが、素人ゆえにさっぱり分からない。今日はこれで終わりです、と言われて次回の予約を取り付けてもらった。麻酔の注射も歯を削るのも今日は無しで、肩透かしを喰らった気分だ。初診だったからか。毎回歯医者には死を覚悟してきているが、こうしてレントゲンのみとか型を取るだけとかそういった回も思い返せば少なくはなかった。ともかくこれで今日は帰れる。会計に呼ばれると、レントゲンに初診料込みで総額4000円ほどだった。死は覚悟できていたが、数千円単位で金を失う覚悟はできていなかった。