軋み

軋んでいる

ドラム式会話術

寝具一式を洗濯するタイミングは、俺がしたいと思った時という実にアバウトな間隔でやってくる。それはこの度は珍しく平日業後にやってきた。布団カバーはスペースの都合上ベランダに干しているのだが、部屋が北向きなので日中に3時間以上は出しておく必要がある。業後には日もほとんど暮れているので、比較的最近できたコインランドリーまで行って、そこで乾燥機にかけることにした。

脱水だけ終わって、まだ水気の残っている枕カバー、布団カバーとベッドパッドを無印良品の買い物バッグ(店舗まで返しに行けば150円が返ってくるが、交通費の方が高いので返していない)に詰めて自転車をこぐ。パチンコ屋と花屋に挟まれた、ガラス張りの建物に入っていく。ドラム式の洗濯乾燥機が壁に備え付けられており、なんだか宇宙船の内部にいるような気分になった。適当な洗濯機の扉を開くと「洗濯物を入れて、硬貨を入れてから扉を閉じ、ボタンを押してください」という具体的な指示が録音された音声に乗って流れてきた。「乾燥」のみのボタンには10分100円と書かれている。相場通りの値段だ。

思い出したのは、前に住んでいたマンションでの共用の洗濯機と乾燥機が並んでいたスペースのことだった。そこの設備は、ドラム式が壁から生えているということは断じてなく、家事に全く疎かった俺から見ても旧式な、竪穴式の1回200円の洗濯機と、今回立ち寄ったコインランドリーと同じ10分100円だが容量にかなり差があると思われるガス乾燥機。その旧式の中でも1台だけ、しゃべる乾燥機があった。共用の洗濯機となると、何となく10数台の中で自分が使うものを固定したくなったので、決まった1台の洗濯機を使い続けていたのだが、その洗濯機から1番近い場所にあった乾燥機が、その喋る1台だった。別の乾燥機ですでに2,3回は回していたので、そいつの扉を開くといきなり「いらっしゃいませ」と言われ、驚いて周りを見渡してしまった。「洗濯物を入れて乾燥ボタンを押してください」と続いて言われたので、乾燥機がしゃべったことを確信できた。硬貨を入れると「ふんわり乾燥を始めます」と言った後にぐるぐると回り始める。

詳細までとはいかなくとも、今でもあのマンションの乾燥機のワードやセンテンスを覚えている。アクセシビリティの観点からも、乾燥機がしゃべることは昨今そんなに珍しくもないだろう。実家を離れて1人暮らしで使う共用の乾燥機がそんなに嬉しかったのか。ぼんやりと座って過ごしているうちに乾燥が終わったらしい。扉を開くと「洗濯物を取り出してください」くらいのことしか言われなかった。「ふんわり乾燥」というよく分からんワードは一切無し。この乾燥機のことはすぐ忘れる気がする。