軋み

軋んでいる

湯けむり地獄変

2週間に1度くらいの頻度で銭湯に行く。若干離れたスーパー銭湯まで自転車を飛ばす。ネットで調べたところ、徒歩数分の距離にも銭湯があるのだがいわゆる地域密着型で固定客が集中しているようで、中には体を洗わずに先に湯船に入ってくる御仁もおわしましたので1回行ったきりだ。

で、銭湯に行く。住んでいる部屋の風呂が碌な広さではないというのが第一だが、それ以外だと体重計とサウナを目的にもしている。定期的に大量に汗をかいておくのと、身体測定はフルリモートで働くうえで大事だと思っている。スーパー銭湯というカテゴリの割に奥まった土地にこじんまりと構えられた店だが、いざ行くと店内はそこそこに賑わっている。浴場ではド近眼には常時欠かせない眼鏡をはずすので周りの客を上手く認識できない。俺は声の聞き分けがほとんどできない(声優の名前を言われても声が結びつかない、など)のでうすぼんやりとした認識レベルの中で知人の声がしたような気がして、妙に警戒する羽目になる。地元に親しい人物など一人もいないのに、ましてこの大阪の地で知り合いと遭遇して声を掛けられるなんてことはまずないのにどうして。その日は聴き慣れているような気のする声の中に風変わりなものが混じっていることに気が付いた。露天の炭酸湯を目当てにドアを出たところ、その炭酸湯の縁に腰かけて明らかに英語ではない声で話している巨漢が2人。「シュ」の音が高頻度なのでフランス語のような気がする、知っている単語はメルシーしか無いが。たのしげにマシンガントークをしている。シュが何度も発せられている。内容は全く分からない。その2人のほかにも湯船に浸かっている人がおり、スペース的に炭酸湯は埋まっているので適当な椅子に掛けて体を湯冷ましさせながら待つ。気化熱が収まり始めるまで待ち続ける間もまくしたてられ続けるフランス語。空気に触れすぎて芯から冷え始めた体を再び温めるために隣のジャグジーに入ってもまだフランス語が続いている。肩まで浸かったり膝下だけ浸かったりで上がる気配のないフレンチ。もう一人のスペースを埋めているおっさんもこうしている間に2回くらい入れ替わっている。一人上がったときにそそくさと炭酸湯を確保しにいかなかった俺が馬鹿だった。斯様な状況で謎の言葉で談笑をされ続けているうちに被害妄想が芽生え始めてきた。おっさんが炭酸湯から上がってくると即座に肩まで浸かる、今回は上手くいった。すると入れ替わるようにしてフレンチメンが縁から腰を上げ、巨体が2つ屋内に入っていった。炭酸のせいで金玉にしびれが徐々に伝わってきた。