軋み

軋んでいる

別れの季節の話

フルでリモート勤務の形態なので時の流れがひどく早く感じられる。いつの間にか10月になっていて、2021年度も半期が終了した。職場の体制が大掛かりに変わるらしい。詳しく聞いてないが自分の立場は特に変わらないはずなので、あまり気にしていない。が、同じチームの人が1人、離任することになった。この業界ではよくある話なのだが、出社がほとんどない状況下で実際に顔を合わせたことのある数少ないメンバーであり、実業務の段取りのレクチャーから作業外の作法まで教わったし、作業を2人で行ったこともある方が居なくなることはやはり寂しいと感じる。

初めて彼と会った、というか俺が一方的に彼を認識したのはまだテレワークの申請が通っていない時期のこと。雨の中で屋根の付いた喫煙所で彼がひとりタバコをふかしている時で、180センチを越すラガーマンのようなシルエットを見て「ああ、苦手なタイプの人だな」と思った。その後職場でそのラガーマンと出くわすのだから分からんものだ。彼がスポーツを実際にやっていたかは知らない。ただ、隣に座ると案外腹が出ているのに気付いた。結婚してすぐらしいので幸せ太りかもしれん。

彼にとっては最後のリモート夕礼だったが、職場の規定でネットワークリソースを極力使わないようカメラはオフだ。俺も終日寝間着とほぼ変わらない、ラフな格好で資料を作ったりなどしているので、この辺の規定はむしろありがたい。彼の最後の挨拶は見事なもので、自分より2つ程度年上の人がすらすらと礼儀作法100点の喋りがてきることに衝撃を受けてしまった。「最後になりますが、皆さんのますますのご活躍とご健勝をお祈りしています」なんて、俺が数年前に体調不良で職場を退場になったときにはとうとう出てこなかった語彙だ。あの時の挨拶はひどく、文字に起こしても数十字喋るのがやっとで、「ありがとうございました!」と元気にビックリマークを付けた語気で、半ばヤケクソに押し通したのだ。

あの挨拶から何年か経っている訳であるが、自分がマイクを持って注目を浴びたときにあそこまでの喋りができるようになっているとは思えない。彼からラーニングをすればひょっとするとイケるのかも知れんが、彼もまた誰かからそのトークスキルをラーニングしたのだろうか。何となく、そうではないような気がしている。