軋み

軋んでいる

帰省した時の話・セグウェイ

セグウェイに乗りたい、という願望がかねてからあった。無職期間のうちに済ませてしまいたかったが、コロナ下であることや家族から真面目に転職活動をするように怒られたことなどで、それは叶わなかった。大阪にいる今でも「セグウェイ 試乗」みたいなワードで検索をかけてみたが、かなり遠出せねばならないようで、方向音痴に加えて乗り換えもまともにできないなど俺の能力面の観点から断念した。そこで、1年ぶりの帰省の期間を使って、比較的慣れ親しんだ交通機関で行ける場所に体験乗車をすることにした。会場はセントレア。7000円の2時間体験コースを予約した。空港内をぐるっと転がすルートをとる。セントレアがそんなことまでやっているなんで知らなかった。

セントレアに来るのは人生2回目だったが、比較的慣れているはずの道中乗り換えで迷い、広いセントレア構内でまた迷いで遅刻してしまった。当日、年末なので多少は混んでいるかとも思われたが、やはりコロナの影響で人もまばらだった。集合場所に着くと、この時間の体験希望者は俺一人、そのおかげで遅刻も特に何も言われない。茶色に染めた髪を後ろでまとめたナイスミドルが講師。引き締まった体をしていて、素直にいい年の取り方だなー、と思った。安全のためのヘルメットと、インカムを渡されて早速乗車。セグウェイの動作は単純で、ハンドルを切ったほうに曲がる、つま先と踵で体重をかけたほうに進む、直立の場合は停止。これだけだ。これだけなのだが、まず止まっているという動作だけでもかなり難しい。たいていの人間は普段、つま先と踵の両方に体重をかけずに直立しているということはほとんどないだろう。それがセグウェイの上では重要になる。無駄に腹筋に力を入れたりするが、よろよろとクリーピングしてしまう。ニュートラルにしているつもりでも、徐々に右に曲がりながら後退していく。自分の体の歪みがよく分かる。セーフティ機能を外せば最大で時速20キロまで出るらしい。このままそのスピードで走ったら死の危険性すらあっただろう。

直線に並べたコーンで作ったスラロームやクランクを10往復くらいしてようやく感覚を少し掴めた。セグウェイ乗車とはスポーツなのだと。ヘソをハンドルに近づけて加速、ひざを曲げながら尻を落とすようにして減速。全身を使わなければいけない。スムーズにS字を曲がれるようになったところで、コースに出る許可が下りた。

セグウェイを転がしながら、インカムから流れる空港内の案内を聞く。セントレアに来るのが2回目と言っても、1回目は10年以上前の話なのでほとんど初耳のようなものだ。講師の人はセグウェイを楽々と乗りこなしながら、本当に色んなうんちく話をしてくれた。飛行機搭乗待ちのラウンジは、実は代金さえ払えばだれでも使える(中では酒も飲める)こと。東京では行列ができるほどの大人気店が入ったが、セントレアではいまいち伸びが悪いこと。セントレア周りは工業地帯なので観光する場所がなく、魅力のない都市で世界ランキング入りを達成したこと、飛行機の燃料が灯油であること、デッキから見える低い建物で機内食を作っているが、高所でも味が分かるように濃い味付けがされていることなど。覚えているのはこれくらいだが、ながら運転で本当によくここまでスラスラと喋れるものだなと。俺はといえば丹田に力をこめたり込めなかったりで忙しい。途中で写真を撮ってもらったが、ヘルメットとマスクで顔がほとんど隠した陰気な男がピースサインを決めている事実のみが記録されている。

最後は屋外でセーフティ機能を外して、高速での運転を行う。S字に進んだり、縁石に片側が乗り上げた状態のまま運転をする。生身のまま20キロ近い速度をだすのも講習開始直後は不安しかなかったが、多少離れてくるとやはり楽しい。マリオカートで体が揺れているアレが、そのまま動作となってついてくる快感がある。後者の課題はバランスがとり辛く、すぐ降りようと曲がってしまったが、2回目のトライで何とか達成できた。すべての課題を達成できたので、自分の名前入りのセグウェイ受講証明書をいただいた。ただの記念品だと思っていたが、これがあると1年間はほかの観光地のセグウェイツアーの講習料金がタダになるというものだ。先ほど書いた通りセグウェイとはスポーツなので、翌日は体幹の筋肉痛に悩まされたがそれを上回る経験を得られた。乗車可能な場所には限りがあり、ツアー参加費も馬鹿にできないので趣味にするにはやや厳しいかもしれない。Amazonでちょっと調べてみたら70,000円くらいはするものらしい。微妙にあきらめがつかない金額。